エディブルウェイ プロジェクト

「食べられる景観」で
人と人をつなぐまちづくり

インタビュー

2022.04.20

約48万人が暮らす千葉県松戸市。その中心にある「松戸駅」と、南へ1kmほど先にある「千葉大学松戸キャンパス」をつなぐ道沿いでは、同じデザインのフェルトプランターがたくさん並んでいます。

これは「エディブルウェイ」プロジェクト。エディブルウェイとは、英語で「食べられる」を意味する「EDIBLE」と、「道」や「方法」を意味する「WAY」をつなげた造語です。野菜やハーブなど食べられる植物を地域住民のみんなで育て、人やまちをつなごうという活動で、2016年に始まりました。

プロジェクトを主宰しているのは、研究者・都市園芸家の江口亜維子さん。千葉大学大学院園芸学研究科博士後期課程に在籍していた当時、住民参画のまちづくりなどを研究している木下勇教授や研究室のメンバー、地域住民の方々とこのエディブルウェイプロジェクトを開始。現在は、学生や地域の方々と協力しながら市民活動として、緩やかなつながりづくりを目指した取り組みを行っています。

江口さんに、エディブルウェイを始めたきっかけや、始めてからどのような変化があったか伺いました。

実体験から生まれた
エディブルウェイ

大学院で木下勇教授のもと「エディブル・ランドスケープ(食べられる景観)」について学んだ江口さん。エディブル・ランドスケープとは、食べられる植物で景観をつくる取り組みのこと。人々のコミュニケーションを活発にし、コミュニティづくりのきっかけになるとされており、近年欧米を中心に、こういった町中の公共空間で食べられる植物を育てる動きが広まっています。

「2011年の東日本大震災直後、不安な気持ちで過ごす時期に、近所の方たちと何気なく声をかけあうことがとても心強く感じました」と話す江口さん。

江口さん自身、「周りの人たちとのコミュニケーションによって物理的にだけでなく、精神的にも助けられる、普段何気なく挨拶するような緩やかなつながりの大切さ」を実感した経験から、街中の生活に身近な場所でエディブル・ランドスケープを取り入れたいと思ったそうです。

しかし、日本では「公共物の私物化に当たる」として、欧米のように公共空間に食べられる植物を植えることは難しいとされています。そこで江口さんは、一人ひとりが軒先や店先のスペースで植物を育てることで、エディブル・ランドスケープを実現できるのではないかと考えました。


そうして、沿道のスペースにお揃いのデザインを施したプランターを置き、食べられる植物を育てる、「EDIBLE WAY (エディブルウェイ) 食べられる道」プロジェクトが始まりました。

エディブルウェイのデザインを施したお揃いのフェルトプランターが玄関先に並ぶ。

地域の方たちの会話のきっかけに

エディブルウェイに賛同してくれた家庭の玄関先やお店の前にプランターを置き始めたところ、興味をもった通りすがりの人から「これはなんですか?」と話しかけられたり、ご近所の方と植物の成長具合を報告しあったり、沿道での会話が増えたそうです。

また、各家庭で育てた野菜は、地域の人たちと少しずつ持ち寄って「ごはん会」に。今まで話をしたことがなかったご近所さんや、挨拶だけだった人同士が初めて会話するきっかけにもなりました。また、沿道での会話から収穫物のお裾分けをし合ったり、地域のつながりが深まりました。

「植物の世話具合で、その家の人が元気なのかなと健康のバロメーターなのよとお話ししてくださる高齢の方もいらっしゃいました」と江口さん。

プランターの状態から、植物を育てている人の健康状態を確認する「見守り役」としても活用されていることもあるようです。

「沿道の園芸活動には、直接的にも間接的にもコミュニケーションを誘発する効果があるのだなと感じました」

コロナ禍でも工夫して地域のコミュニケーションを継続。
各家庭で収穫した野菜を持ち寄り、ごはん会を開催。

コロナ禍でも続くコミュニケーション

2020年以降、コロナウィルスの影響で季節ごとにおこなっていたごはん会は完全に中止となりましたが、そのかわりにクラフト活動をスタート。北欧で農家の守り神とされている「トムテ」を剪定された木の枝を活用してつくり、プランターに飾って、直接会える機会が減っても楽しめるしかけをつくりました。

「コロナ禍で遠出できないなか、お子さんとプランターとクラフトのトムテを見て回り、普段の散歩時間が楽しくなったというエピソードも伺いました」

エディブルウェイに参加していない方たちからも、このクラフト活動は好評。参加者同士も、他の方のプランターをよく見るようになったといいます。

コロナ禍でも工夫して地域のコミュニケーションを継続。
プランターに飾ったトムテ。道行く人たちの目を楽しませてくれている。

沿道の景観だけでない、
つながるコミュニティへ

2016年に始まったエディブルウェイ。今では、他の地域でもエディブルウェイをモデルケースにした食べられる景観づくりが広がりつつあります。

「気軽に、身近な場所で楽しく野菜やハーブを育てる活動が広がり、つながっていくと嬉しいです」

畑や庭がなくても、玄関先で植物を育てることで地域の景観として楽しまれ、ご近所さんや通りすがりの人とのコミュニケーションが生まれています。

今後、全国各地で「エディブルウェイ」が見られるようになるかもしれません。

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エディブル・ウェイプロジェクトチームのみなさん(江口亜維子さんは後列一番右)

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