家庭菜園で育むシニア向けマンション住民と地域の交流

使用事例

2022.04.28

マンションで自然を実感しながら暮らす。シニア世代の多世代交流。コロナ禍における安心できる人との触れ合いの場。どれも簡単ではないこれらの課題を、ベジトラグを使った菜園をツールとして見事に解決したマンションがあります。住民と地域の交流が活発に行われ、地域の人々にとってもなくてはならない場所に成長しているシニア向け分譲マンション「デュオセーヌ国立」の事例を紹介します。

住民と街の人が共有する
マンションの公園と菜園

「こんにちは。ローズマリーを摘みにちょっと下まで」
「お宅の畑、トマトがもう獲りどきだったわよ」
「こないだ一緒に収穫したカブ、すごく甘かったわね!」

東京都国立市にあるシニア向け分譲マンション「デュオセーヌ国立」では、いつもこんな会話が住民達の間で交わされています。話題はマンション敷地内にある「けやき菜園」で育つ野菜や花たち。ここには家庭菜園やガーデニングを楽しみたい人たちに向け、レイズドベッドのプランター「ベジトラグ」を使った菜園が用意されています。ユニークなのは、けやき菜園がマンションの入居者だけでなく、地域住民も利用できること。菜園はマンション併設の公園「けやきガーデン」のなかにあり、この公園と公園に面したレストラン「けやきテラス」も、地域の人々が利用できるスペースとして開放されています。
※新型コロナウイルスの影響により現在はマンション住民のみ利用可能。

一般的に都心部のマンションでは、マンション居住者と地域住民が交流する機会はあまりありません。さらに、シニア世代では外出の機会も限られ、人との触れ合いや社会との接点が少なくなりがち。「デュオセーヌ国立」は、そんなシニア世代の孤立を防ぎ、居住者同士はもちろん、地域住民とのコミュニティ形成をコンセプトとして開発されました。そのツールとなっているのが『緑』です。

公園には芝生の広場があり、その周囲は武蔵野の雑木林をイメージした木々で囲まれています。ケヤキやコナラ、ヤマボウシ、エゴノキ、ヤマザクラ、ミツデカエデ、ヤマモモなど、四季折々に変化する木々は居住者の窓辺の風景とともに街の景色にも彩りを提供しています。井戸水を循環させた水辺のエリアも設けられており、地域の子どもたちの遊び場や犬のお散歩コースとしても親しまれています。

さらに、交流を活発化させているのが「けやき菜園」です。菜園には立ったまま楽な姿勢で作業ができるベジトラグ13基が設置されています。これらは居住者や地域住民の希望者に1基ずつ割当てられ、個々の区画でガーデニングが楽しめるようになっています。また、地植えのスペースも用意されており、ここではベジトラグ利用者以外も菜園体験ができます。

菜園をツールとする
コミュニティデザインプログラム
「めぐりかだん」

「けやき菜園は菜園を作ること自体が目的ではありません」と話すのは、菜園での活動を運営している日比谷花壇の保坂悠平さん。けやき菜園での活動は、保坂さんをはじめとした日比谷花壇の専門家チームが監修する「めぐりかだん」というコミュニティデザインプログラムに沿って行われています。

「コミュニティデザインプログラムとは、人々の交流をどのように図るかというコミュニティ形成の設計図で、菜園はそのための手段です。日々、成長する野菜は持続的な会話のきっかけを提供し、さらに『食』という誰にでも関係するテーマにもつながるため、コミュニティデザインのツールとして菜園を作ることにしました。また、植物の成長に伴い、間引きや芽かきなどが必要になる菜園の作業は、高齢者の方々が身体機能を楽しく維持していく運動にもつながります」(保坂さん)。

ダイコンやカブなど、根菜類の育成を助けるマリーゴールドをプランターの縁に植栽。

保坂さん達はまずプランターという限られた空間を最大限に活用し、なおかつ有機栽培に有効なコンパニオンプランツで美観も考慮した年間作付け計画を独自に作成。年間を通して植物が育ち、利用者同士の会話が弾むようにしました。苗や必要な資材とともにテキストを利用者に配布し、日比谷花壇のチームが講師となって皆で一緒に作業を行い、初心者でも安心して取り組めるようにしました。

またチームは講習以外でも定期的に巡回し、現地にはガーデンコンシェルジュを常駐。困ったことがあればいつでも相談できるようにしました。
※近くに栽培することで害虫を防いだり、互いの成長によい影響を与え合うとされる2種以上の植物の組み合わせ

収穫物を使ったクラフト講習。

菜園での活動は栽培だけにとどまらず、収穫物の活用にも展開されています。例えば、野菜の収穫とセットでガスパチョ作りやピクルス作りといったイベントが行われ、マンションで暮らしながら緑とともにある生活が実感できます。

「こうしたガーデニングイベントはほとんど毎月のように計画されており、ヤマモモを使ったシロップ作りや、クリスマスクラフトなどでは公園の木々を素材とし、菜園利用者だけでなく誰でも参加できます。武蔵野の森というのは昔からこうやって人に利用され、人の暮らしとともにありました。そうした里山の暮らしを体験できるように公園の樹種も選択しています」(保坂さん)。

秋に開催されたハロウィンイベント。

地域に愛される場所として成長

皆で一緒に作業を行ったり、こうしたイベントを通して季節の楽しみを多くの人と共有する機会を作り出すことこそ「けやき菜園」や「欅ガーデン」の存在意義です。
ここでガーデンコンシェルジュを務める森井真理子さんは、住民と子ども達の交流もたびたび目にするといいます。

「菜園の野菜は小さな子ども達の興味も大いに引くようで、歩き出したばかりの子が90代の居住者の方の手を引っ張り、実っているところまで連れて行ったりするんですよ。プランターの列は鬼ごっこにもちょうどいいようで、子ども達が元気に遊んでいる姿はマンションに活気を与えてくれますね」。

子ども達の姿は住民の楽しみでもあり、また一方で大人の目に守られているこの空間は、地域の子育て世代が安心して子どもを遊ばせることのできる貴重な場所にもなっています。

「シニア向けマンションは終の住処として選ばれる方も少なくないなかで、住民の方と地域の方々がお互いになくてはならない関係性を築けていけることは、本当に嬉しいですね」と森井さんは話します。

コロナ禍で人との触れ合いや絆の喪失が危ぶまれる昨今、コミュニティのあり方が社会のテーマとなっています。シニア世代の孤独感、そしてコロナ禍における交流という難しい課題を、緑をツールにしたコミュニティデザインプログラムで見事に解決した「デュオセーヌ国立」の事例は、その大きなヒントとなりそうです。

商品情報
ホームベジトラグL

information

保坂悠平さん
株式会社日比谷花壇ガーデンデザイナー。個人邸から商業施設、オフィスなど広くデザインを手掛ける。また地域の多世代交流を目的としたコミュニティデザインプログラム「めぐりかだん」を監修。

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